教室ブログ

2024.08.29

北陸の雷で対消滅

こんにちは、個別指導Wam藤の木校です。

 

中学2年の理科で、物質を細かく細かく分けていくと最後は「原子」という粒子にたどりつく、と習います。そこで原子は「それ以上分割することができない最小の粒子」とされていました。ところが高校の物理になると、さらに原子は原子核と電子からなっていて、原子核を中心に電子が回っているとされます。心の奥で「なんだ、原子は最小の粒子じゃなかったんじゃないか」と呟きたくなったのですが、今回は、その後の話。

 

原子核はプラスの電荷を帯び、電子はマイナスの電荷を帯びる。それで様々な現象が説明できますし、またその通りになっています。でも、なぜ原子核はプラス、電子はマイナスなのでしょう? 反対、つまり原子核がマイナスで、電子はプラスになってもいいんじゃないでしょうか。両方(電子にもプラスとマイナス)あってもいいはず・・・考えたことありますか?

そこで考え出されたのが「反物質(はん・ぶっしつ)」です。同じ物質なのに、構成する素粒子の電荷などが全く逆の物質です。かつてはアニメや特撮映画などで設定として使われていましたが、もう聞かなくなりましたね。ましてや、粒子と反粒子とが衝突してエネルギーが発生する「対消滅(つい・しょうめつ)」なんて、難しすぎて笑ってしまいますね。

「いやはや、20世紀末のフィクションの世界はハチャメチャでロマンがあったよね」として終わりにしたく思いますが、なんと現実に発生していたのです。しかも北陸の空で

 

北陸の石川県は雷が多い地域として知られています。雷は夏に発生するのが一般的ですが、富山でも「鰤(ぶり)おこし」と呼ばれているように、石川県の雷も冬に多く発生し、年間の雷観測日数は42.4日と全国一なのだそうです。

夏の雷は一般に積乱雲で発生し、高さ10キロほどで大きさ数キロ程度なのに対し、石川の冬の雷は、雲の高さこそ3キロ程度ですが水平方向に100キロ以上の長さがあり、雲の体積が全く違うのだそうです。この大量の雲の中で電気が溜まって発生するので、とてつもないエネルギーを発するのだとか。このような超巨大雷はその筋では「スーパーボルト」と呼ばれているそうです。

さて、発端は原子力施設で何も起こってないはずなのに放射線が検出されるという現象が起こったことでした。そのうちに「どうやら雷雲が来ると放射線が増えてくるようだ」と言われ始め、それを確かめるために石川県金沢市/小松市と新潟県柏崎市で観測を始めたところ、2017年に柏崎市で雷からガンマ線が数十秒にわたって吹き出していることがわかったそうです。しかも反物質である陽電子と、電子の対消滅のエネルギーに当たる511キロ電子ボルトのガンマ線が発見されたのだとか。対消滅のエネルギーが511キロ電子ボルトというのは物理学の世界では常識だそうで、この発見に当時の物理学会では騒然としたそうです。

 

メカニズムはこうです。まず超巨大雷「スーパーボルト」から大量のガンマ線が発生、するとそれが大気中の窒素原子に衝突し、窒素原子が次々に別の原子(炭素原子)に変換、その際に陽電子(電子なのにプラスの粒子)が飛び出し、そしてこれが周囲の電子と対消滅する・・・のだとか。

想像上の世界だけと思っていた反物質の対消滅が、まさか地球の大気圏内で実在していて、しかも北陸の雷で発生していたとは。恐るべし超巨大雷・スーパーボルト!

 

ここまで反物質がまるで想像上の物質かのように書きましたが、実はいまの素粒子物理学では、反物質は実際に存在する前提、つまり教科書に載るような常識とされています。雷の中で発生が確認されたのは北陸だけですが、その前に大型加速器を使った反陽子や反中性子などの人工的な生成には世界各地で成功していたのです。

反物質が作られるときには、ペアになる通常の物質も同時に生成されます。でも現実には、私たちの身の回りには反物質はほとんど存在しません。なぜでしょうか?

そこで「対消滅」の登場です。反物質がペアとなる通常の物質に触れると対消滅を起こして消えてしまうのです。この宇宙には通常の物質がたくさんありますから、反物質が生まれたとしてもすぐに対消滅を起こしてなくなってしまうんです。だから反物質はほとんど存在しないし、雷の中で生まれてもすぐに消滅してしまうんですね。

 

でも疑問は続きます。物質と反物質は同じ数ある。同じ数あるものが対消滅するなら、物質と反物質は残ることなくすべて消滅してしまい、この宇宙は物質も反物質もない“無の世界”になるはず。でも実際には、物質から構成されている星や銀河、そして私たちのような物質で作られた生命体までが存在している。なぜでしょうか?

 

この問題を説明するために、現在の宇宙論では、次のように考えられています。

宇宙が誕生した直後、大量の物質と反物質が作られた。そして物質と反物質はお互いにぶつかりあい、対消滅して消えた。しかし、そこに何らかの“わずかなゆらぎ”が起こり、10億分の1程度の比率で物質の方が多くなった。そのため、対消滅した後も10億分の1程度の物質が残ることになり、星や銀河が作られた・・・

つまり、宇宙誕生直後は現在の10億1倍の物質と10億倍の反物質、あわせて20億1倍ものモノがあったのに、そのほとんどが対消滅で失われてしまい、今は対消滅を免れた物質(当初の20億分の1)だけでこの宇宙が構成されている、ということです。

 

この“わずかなゆらぎ”を「量子ゆらぎ」といい、この「量子ゆらぎ」をきっかけとした宇宙誕生のモデルを「インフレーション理論」と呼んでいて、現在では宇宙誕生の謎を解き明かすための最も有力な説と考えられています。

 

難しかったでしょうか。身近に起こっている雷が宇宙創生とつながっているなんて、考えもしないですよね。

でも、身近に起こっている出来事だからこそ、思いがけない発見が隠れているかもしれません。そして、現在の宇宙論も仮説のままで、未だ多くの謎に満ちています。裏返せば、今の科学でわかっていることなんてほんの少し、なのです。

ぜひあなたも、この深遠なる科学の世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。

 

 

【参考】

NHKサイエンスZERO「北陸の巨大雷で大発見!驚異の物理現象“対消滅”の謎を追え」

教養ドキュメントファンクラブ (ksagi.work)

雷が反物質の雲をつくる!? — 雷の原子核反応を陽電子と中性子で解明 —

この宇宙は本当なら「無の世界」だった?! 【反物質】の研究で宇宙の謎を解明する|スタディラボ (studyu.jp)

 

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