こんにちは、個別指導Wam藤の木校です。
かつてはけっこう使われていた言葉なのに、最近は使われなくなった日本語があります。
言葉は時代とともに変わるものですし、ある意味仕方のないことですが、にも拘らず入試には出題されることもあります。特に文学的文章では、どういう意味なのかわからない表現なのに注釈もついていない場合がありますね。
今回は、最近は使われていなくてぱっと意味はわからないけれど、以前は使われていた言葉として、「ぞっとしない」「まんじりともせず」「やぶさかでない」「斜に構える」の四つを紹介します。
一つ目は「ぞっとしない」。
「ぞっとする」は今でも言いますよね。そう、「恐ろしさに身の毛がよだつ」という意味です。でもそれに否定語を付けた「ぞっとしない」は、どういう意味なのでしょうか。
問題:
「今の映画は、あまりぞっとしないものだった」というとき、「ぞっとしない」はどのような意味でしょうか?
答:答えは、1.の「面白くない」です。「ぞっとしない」は、面白くない/特に驚いたり感心したりするほどではない/いい気持ちではない、という意味です。
「ぞっとする」の意味から「ぞっとしない」はそれとは反対の「恐ろしくない」だと思われた人も多いのではないでしょうか。
「ぞっと」は、背筋が震えるような心地のことではありますが、その原因は感動という場合もあり、恐ろしさに限って使う言葉ではありません。「ぞっとする」は寒さで震える時にも使われます。
そう知ると、「ぞっとしない」が「それほど感心したり、面白いと思ったりするほどでもない」という意味で使われるのもうなずけますね。
二つ目は「まんじりともせず」。
例文も思い浮かびませんね。そもそも「まんじり」ってなに?
問題:
「まんじりともせずその時間を過ごした」という一文において、「まんじりともせず」はどのような意味でしょうか?
答:答えは、2.の「眠らないで」です。「まんじりともせず」は「少しも眠らないで」という意味なのです。
「まんじり」とは「ちょっと眠るさま」のこと。
多くは打消しの語を使って「まんじりともせず(少しも眠らないで)」「まんじりともしない」という言い方をし、「昨夜はあまりの暑さにまんじりともできなかった」などと使います。
打消しの語を使わずに「まんじり」を使用すると、「じっくりと見つめるさま」「まじまじ」という意味や、「何も手につかないでいるさま」という意味になります。
「まんじりともせず」という言い回しが使われるシーンは、本来ならじっと眠っているべき夜のシーンや状況で使われることが多くあります。そのため、「何もしない」「じっと動かない」という意味として読んでも、文脈に不自然さが出にくいので誤用されることが増えたのかもしれませんね。
三つ目は「やぶさかでない」。
どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。でも意味を聞かれると首をひねってしまうかもしれません。
問題:
「協力を求められればやぶさかでない」という一文において「やぶさかでない」はどのような意味でしょうか?
答:答えは、1の「喜んでする」です。「やぶさかでない」は「喜んで~する」「~する努力を惜しまない」という意味なのです。
「やぶさか」は思い切りの悪い/ためらう/物惜しみする/けちな/未練がましい様子のことです。ちなみに漢字では「吝か」と書きます。
語源をたどると、「やぶさか」は平安時代の言葉「やふさがる(=物惜しみする)」「やふさし(=けちである)」に由来します。「やふさ」に接尾語の「か」がついて「やふさか」になり、やがて「やぶさか」になったといわれています。
つまり「やぶさかでない」とは「けちるつもりはない」「惜しむ気はない」という気持ちを表した言葉であり、「喜んで~する」「~する努力を惜しまない」という意味になります。
「やぶさかでない」は、「やる気がある」ことを控えめな表現で主張する言葉ですが、少々遠回しな言い方でもあるので、「仕方なく」という間違ったニュアンスで伝わる可能性もあります。
四つ目は「斜に構える」。
これは聞いたことがあるどころか、よく使う人もいるのではないでしょうか。でも意味は誤って使っているかもしれません。
問題:
「対話の進まない相手に対して斜に構える」という一文において「斜に構える」はどのような意味でしょうか?
答:答えは、1の「改まった態度をとる様子」です。「斜に構える」の本来の意味は、相手やものごとに対して身構えたり、改まった態度をとる様子を指しているのです。
斜に構えるの語源は剣道の構えです。剣道には上段・中段・下段の構えがあり、中でも中段は相手に対して剣先を向けつつ、刀身を斜めに伸ばした状態になります。中段の構えは、試合を開始する際の「お互いが真正面から向き合う基本的な姿勢」です。真剣に身構えた状態で、相手に切り込むための準備をしています。他の構え方と比較しても、最も隙が見られない構えです。刀を斜めに構える中段の状態を、「斜に構える」と呼んだことが語源となりました。
現在一般的に認識されているような、ひねくれた態度や不真面目な言動という意味での使用は、誤用が一般的な使い方として定着したものでした。真剣に相手と向き合うという本来のポジティブな意味は、いつしか認知度が低くなってしまいました。
誤解されないように使う時には注意したいものですね。
【参考】