こんにちは、個別指導Wam藤の木校です。
クイズです。次が表すものはいったい何でしょう。
・数である
・数直線上にはない
・二乗するとマイナスになる
・大きいも小さいもない
わかりませんよね。答えは「虚数(きょすう)」というものです。
高校2年の数学で習うのですが、まだ高校に入っていない人も雑談として聞いてもらえばと思います。
この「虚数」という数、ものすごく変な数なのです。
数は数なのですが、「二乗してマイナスになる」って、テストで書いたらバツになりますよね。しかも「数直線上にない」って、「大きいも小さいもない」って、???ですよね。ふつう数というのは、数直線の上のどこかにあって、その位置関係から大小が決まるものです。
今回はそのわけのわからない「虚数」のお話です。
中学1年の初めに、0よりも小さい数を習います。マイナス、いわゆる負の数です。それによって、数字というものはマイナスいくつからプラスいくつまで一直線上に並ぶものだ、というのを(正式には習わなくても)理解できると思います。
それから謎の数・π(パイ)。小学校で3.14と習うものの、π(パイ)は小さな位の続き方に規則がありません。このように続き方に規則がない小数のことを無理数といいます。
無理数はπ(パイ)以外にもあり、平方根もそうですが、他に自然対数というのもあります。2.718・・・と続く数でeと表します。
負の数、無理数、自然対数もどれも謎の数ではあるものの、とはいってもまだ数直線上にある数です。では「数直線上にない数」=虚数なんて、どうやって発見されたのでしょう?誰が言い出したのでしょう?
1572年のことです。日本では本能寺の変の少し前です。
すでに二次方程式の解に「2乗すると-1になるモノ」というよくわからない数が登場していました。
例えば、二次方程式 x2(xの2乗)+x+1=0 を解いてみましょう。中3で習う解の公式を使うと
x=(-1±√(1-4))/2
となり、中に √3×√-1 という「2乗すると-1になるモノ」が出てきますね。これはおかしいので x=解なし となります。(高校の数Ⅰでそう習います)
当時の数学者も当然のように「それはもう“解なし”だ」と考えていたのです。
そこにラファエル・ボンベリという数学者が、この「2乗すると-1になるモノ」を“解なし”なんていわないで数の一種として扱おうよ、と言いだしました。
ボンベリのいう「2乗すると-1になるモノ」を仮にAとすると、二次方程式 x2+x+1=0 の解は
x=(-1±√3A)/2
となります。解が出た。めでたしめでたし。
ところが、せっかくボンベリが宣言したのに、「何言ってんだ、「2乗すると-1になるモノ」なんて使わずに“解なし”で済ませればいいじゃないか」という意見が大半でした。そもそも当時は0 や負の数ですら架空のもの、役に立たないものと考えられていたので、ましてや「2乗すると-1になるモノ」なんて数なわけがないじゃないかと無視されました。
けっきょく「2乗すると-1になるモノ」はその発見(定義)から100年以上もの間、数学の中で使われることはなかったのでした。というか、忘れられたというより「役に立たないガラクタ箱」にしまわれていた形です。
時がたち1600年代。偉大な哲学者ルネ・デカルト(「我思う故に我あり」で有名ですが、実は数学者でもあります)が、「マイナスのルートの数などあり得ない」という意味を込めて”nombre imaginaire”(ノンブル・イマジネール、フランス語で「想像上の数」)と名付けました。このときようやく、不名誉ながらも名前を授かったことになります。これが今日の英語の “imaginary number”、日本語の「虚数」の語源になりました。
そして1700年代、レオンハルト・オイラーという数学者が「もし虚数が数であるならば他の数と深い関係があるはずだ」と考え、様々な計算をした結果、いま世界で最も美しいとされる数式にたどり着きました。
eのiπ乗+1=0
なんと、虚数iが無理数πと自然対数eと結びつき、さらに基本の数である1と0とつながっていることを示したのです。このことは、「虚数なんて数なわけないだろ」としてきた数学者たちに衝撃を与えました。
さらに1831年カール・フリードリヒ・ガウスは「虚数を数として認めればn次方程式は必ずn個の解をもつ(5次方程式なら必ず5個の解をもつ)」という美しい結果になることを示しました。ガウスは「虚数の存在を無視してしまえば、数学の美しさと滑らかさが大いに損なわれ、これまで通用してきた真理さえ絶えず厄介な制限を加える必要が生じるであろう」という言葉まで残しています。
以来、虚数は数学界でなくてはならない数として研究されるようになったのです。
「へええ。まあ虚数なんて数学だけの話だし。数学者ってよくわからないものを考えるよね」と思うと思います。ところがさにあらず。なんと20世紀初め、ある物理学(量子力学)の基礎方程式に虚数が必要であることがわかったのです。つまり現実世界においても虚数は欠くことのできない数ということがわかったのです。
身近ではないとはいえ、虚数の世界は現実に存在するようですね。
変な数であるiとπとeが結びついたり、n次方程式は必ずn個の解をもつとわかったり・・・数学の美しさに数学者が魅了される人がいるのもなんとなくわかる気がしますが、皆さんはどうでしょうか?
数学の勉強を続けていると、数学の面白さが少しずつわかるようになるかもしれません。面白さを実感できるよう、今日も数学、頑張りましょう。
【参考】