【2023年 評論文】
【柏木博『視覚の生命力』】
【呉谷充利
『ル・コルビュジエと近代絵画』】
【全体講評】
やや難。30分。
2つの文章が示され、
それらの共通点・相違点を
問われる形式が定着した。
複数の意味を持つ漢字の
「文脈上の意味」を問う問題も
前年度に続きまた出題された。
「窓・壁・建築」と、
受験生にとってあまり馴染みのない
テーマで、前年比やや難化。
特に問4・問5・問6は
選択肢が紛らわしい。
来年度は易しくなるだろう。
【本文要旨】
<文章Ⅰ>
「正岡子規」の書斎には
「ガラス障子」があった。
病気で寝たきりだった子規は、
そこから多様な景色を見ることで、
自身の存在を確認することが出来た。
子規のガラス障子は、
「視界を制限」し、
外界(三次元)を平面(二次元)
に変える「スクリーン」であり
「フレーム」である
「視覚装置」であった。
「ル・コルビュジエの窓」は、
「視覚装置」である点では
「子規のガラス障子」と同じだ。
しかしそれは子規のそれと比べ、
換気より「視覚」を重視し、
あえて視界を
「限定・選別」することで、
かえって景色の広がりが
認識できるようになることに
その特徴と効果がある、
より意図的なフレームだ。
<文章Ⅱ>
周囲を壁で囲い、
開口部(窓)を設けることで、
壁が風景を切り取り、
視界が固定される(「動かぬ視点」)
=風景の観照の空間的構造化。
そうすると住宅は沈思黙考の場
(内面的世界の場)になる。
【設問解説】
<1> 漢字の書きと意味。標準。
アは①、エは③、オは②、
イは④、ウは③。
「感冒」「琴線」がやや難。
<2> 内容説明。標準。
①は「現状を忘れるため」が×。
②は「外界の出来事」、
「自己の救済」が△。
「出来事」というより「景色」。
「自己の救済」
というより「自身の確認」。
③が正解。
④は「外の世界への想像」
が本文からは読み取れず×。
⑤は「作風に転機」
が本文からは読み取れず×。
<3> 理由説明。標準。
①は「見る楽しみを喚起」が×。
②が正解。
③は「切り離したり接続したり」が×。
④は「新たな風景の解釈を可能にする」
が×。
⑤は「絵画に見立てる」がギャグで×。
「視覚装置」の内容はやや難だが、
選択肢に紛らわしいものがなく、
消去法でも解ける。
<4> 内容説明。やや難。
現代文が大好きな「逆説」問題。
「視界を限定しかえって視界が広がる」
の、ズバリ⑤が正解。
①は「外界に焦点を合わせる
カメラの役割」がもっともらしいが
本文になく×。
②は「居住性を向上させる」が×。
③は「アスペクト比の変更を目的」
が×。「目的」ではなく「結果」。
④は明確な誤りはないが、
肝心かなめの「逆説」がなく×。
<5> 内容説明。やや難。
「住宅は沈思黙考の場」の
言葉のニュアンスから
すでに③か⑤に絞られる。
⑤の「制約」③と「限定」、
⑤の「自己省察」と
③の「思索をめぐらす」、
の相対的判断で③が正解。
が、これは難しい問題だった。
<6(i)> まとめ問題。標準。
消去法で解く。
①は「壁の圧迫感」が×。
②は「どの方向を遮るか」が×。
③は「窓の外に広がる圧倒的な景色」
が×。そんな風景の話ではない。
④が正解。
<6(ⅱ)> まとめ問題。標準。
消去法で解く。
①は「現代の窓に影響を与えた」が×。
②が正解。
③が「子規の芸術に影響を及ぼした」
が×。
④は「住み心地の追究」が×。
<6(ⅲ)> まとめ問題。標準。
消去法で解く。
この設問が共通テストを象徴する問題。
「ⅡとⅠを関連づけて」がポイント。
④は誤りはないが
「ⅠとⅡを関連付けていない」から×。
①は「宗教建築として」がギャグで×。
②は「光の溢れる世界を獲得」が×。
むしろ逆で
「光が疎んじられる世界」
=「沈思黙考の世界」がテーマ。
③が正解。