【2021年 評論文】
【香川雅信『江戸の妖怪革命』】
【全体講評】
標準。25分。
共通テスト元年。
複数の文章を関連させようと必死。
しかしおおむね良問。
難易度は前年度なみ。
評論文は満点、小説は1ミスで
90%超を目指したいし、
それが十分可能な年だった。
評論文・小説ともに、
生徒の対話、
および表現に関する問題が消え、
新傾向の「複数の素材を関連付けた」
問題が登場した。
記念すべき共通テスト元年の
テーマが「妖怪」とは、
共通テスト委員会の
ユニークな決断に乾杯。
令和はある意味では妖怪の時代。
【本文要旨】
妖怪に対する認識は、
各々の時代の歴史的背景により
変容していった。
筆者は、フーコーのアルケオロジー
(≒エピステーメーの変容
≒時代とともに変わる知の枠組み
≒物・記号・言葉と人間の関係性)
を援用し、それを論証していく。
中世の妖怪は「人間」にとって、
「物」というより、
心霊からの「言葉」を伝える
「記号」であり、
「リアリティ」を帯びた存在だった。
近世の妖怪は「人間」によって
「記号」を剝ぎ取られ、
「物」そのものになり、
「フィクショナル」な存在になった。
そして「記号」は
「人間」が制御できる「表象」という
「人工的な」ものとなった。
近代の妖怪は再び
「リアリティ」を帯びた存在になった。
「人間の絶対性」が疑われ。
「表象」という「人工的な記号」が
成立しなくなり、
彼らは「人間の内部」に
棲みつき始めたからだ。
【設問解説】
<1> 漢字。やや難。
アは③、イは①、ウは②、
エは③、オは①。
「民俗」「良俗」「喚起」
「援用」「隔絶」など、
それぞれ結構難しい。
<2> 概念説明。標準。
第3段落の
「意味体系の中に回収」がポイント。
①が正解。
②は「フィクションの領域で
とらえなおす」が逆で×。
③は「未来への不安」が×。
④は「意味の体系をあらためて人間に
気付かせる」が×。
⑤は「意味論的な危機を
人間の心に生み出す」が×。
<3> 概念説明。やや難。
①は「考古学の方法に倣い」が×。
②が正解。
③は「要素ごとに分類」が×。
むしろそれらを関連付ける。
④は「ある時代の」が△。
むしろ時代を経て
どう変容していくのかを
考えるのが「アルケオロジー」。
⑤は「大きな世界史的変動」
がギャグで×。
<4> 内容説明。やや難。
①は「人間が人間を戒めるための
道具」が×。
②が正解。
③は「実在するかのように」が×。
④は紛らわしいが逆。
「人間の力が世界中に及ぶ」
が契機(きっかけ)で、
「妖怪の表象化」が帰結。
このように因果関係を逆にし
ひっかけるパターンは
現代文の常套手段。
⑤は「人間の性質を戯画的に形象」
がギャグで×。
<5(i)> 整理ノート。標準。
Ⅱで③か④に絞り、
「娯楽の対象となった妖怪」は
次段落以降なので正解は④。
<5(ⅱ)> 整理ノート。やや易。
これを落とすと
現代文の力はまだまだと
言わざるをえないほどの基本問題。
正解はⅢが③、Ⅳが④。
<5(ⅲ)> 整理ノート。標準。
あくまで本文との関係性で考える。
前問の「不可解な内面を持つ人間」
の流れで、
「私が私を制御不能」の②が正解。
①は「他人の認識の中で
生かされている」が×。
③は「会いたいと思っていた」
がギャグで×。
④は「私が私という分身に
コントロールされて」がギャグで×。
⑤は「他人に噂されて困惑」が×。