【2020年 小説】
【原民喜『翳』】
【全体講評】
標準。20分。
共通テスト(センター試験)が得意の、
「ひと昔前(特に戦中)」の小説。
そしてまたも主人公は、
近親者が亡くなっている。
センター試験最後の年も、
そんな象徴的な題材だった。
評論文に続き、小説も易化。
20分程度でじゅうぶん満点も可能。
【本文要旨】
私と生前の妻が親しくしていた、
魚屋の小僧が出征した。
しかし戦争で身体を悪くしたのか、
復員後すぐに亡くなってしまい、
私たちと彼との再会は叶わなかった。
悪化の一途を辿る戦局の中で、
手紙のやりとりを通じ、
私の心は揺れ動く。
明るく働き者だった小僧、
まさにこのテストを受けている
受験生と同じ年くらいの若者、
の命を無慈悲に奪ってしまう戦争。
そんな重苦しい雰囲気が、
行間からほど走る名作。
20分でいかに広く浅く読めるか、
にあまり意味はなく、
じっくり読んでほしい作品。
共通テストの小説の勉強が、
「読書への架け橋・きっかけ」
になれて初めて、共通テストが
小説を出題し続ける意味がある。
皆さんは過去問を解く過程で、
面白いと思う作品に出会ったら、
どうか大学入学後で構わないので、
原典で全編を読んでみて欲しい。
「恋愛」「性」「死」「戦争」
…色んなことを読書で追体験し、
「今・ここ・私」を超えて、
想像してみて欲しい。
【設問解説】
<1> 語句。やや難。
アが①、イが①、ウが④。
イは③が紛らわしい。
ウは④が紛らわしい。
<2> 内容説明。標準。
①は「恐怖」「逃避」が×。
②は「妻との生活も思い出せなくなる」
が×。
③は「生活への意欲を取り戻そう」
が×。
④が正解。
⑤は「かつての交友関係に拘る」が×。
<3> 心情説明。標準。
①は「気のはやり」が×。
②が正解。
③は「一人前になれなかった」が×。
④は「姿勢すらうまくできていない」
が×。
⑤は「やや度を越している」が×。
評論文は特にそうだが、
小説に於いても、
すぐに選択肢を見てその森に迷う
「消去法」ではなく、
まずは「積極法」で、
「正解のイメージ」を
自身の頭に構築してから、
選択肢を見ること。
ノーイメージで選択肢を見ると、
全選択肢が「あり得る」
ように見えてしまいひっかかる、
あるいは最終的に正解出来ても
時間を食ってしまう。
<4> 状況説明。標準。
①は「兵長にふさわしくない」が×。
②は「急いでいたから」
入らなかったわけではなく、
「遠慮しているから」
入らないので×。
③は「後ろめたさ」が×。
④は「症状が悪化する妻の姿を
目の当たりにして」が×。
⑤が正解。
<5> 心情説明。標準。
①は逆。
2~3行目に、
「紋切型でも心を鎮めてくれた」
とあるので×。
②が正解。
③は「周囲に溶け込めず」がむしろ逆。
59~60行目に
「みんなに可愛がられているに
違いない」とあるので×。
④は「楽観的な傾向が世代に浸透」
がもはや逆というよりギャグで×。
⑤は「他人事のように」が×。
<6> 表現。標準。
「適当でないもの」を選ぶ。
③は別にユーモラスではないので×。
⑥「私の生活が次第に厳しく
なっていった」が×。
正解は③と⑥。