【2018年 小説】
【井上荒野『キュウリいろいろ』】
【全体講評】
やや難。20分。
5年連続女性作家。
リード文がある場合は
魂でリード文を読もう。
「息子と夫を亡くしひとりでお盆」。
もうこの時点でちょっと泣きそうだし
(良い意味で)感動しそう面白そう。
評論文ほど頑なに
「客観的」になろうとしなくていい。
どうか良い意味で「主観的」に、
自身の過去の経験を回想しつつ、
あるいは未知を想像しつつ、
小説は「わくわく」
しながら読んでほしい。
【本文要旨】
息子を亡くした悲しみは深過ぎて、
私はその後を追いたくなるくらいだ。
夫ともお互い感情的になり、
夫に離婚を切り出されるなどした。
その夫すら亡くなった。
夫の同級生の依頼で、
私は夫の写真を整理した。
特に息子が亡くなったあとは、
ふたりとも暗澹たる日々を
過ごしたと思っていたが、
意外にも夫は、私ですら、
笑顔の写真もあり、
本当に自分たちの写真なのかと
見紛うほどだった。
夫の同級生に会いに行く
電車内で席を譲られ、
同じように席を譲られた、
30年前の妊娠中の自分、
および優しかった
生前の夫の姿が思い出された。
夫の同級生に連れられ、
夫の母校付近を散策した。
その過程を通じ、
いかに夫のことが自分の心に、
-それは夫を憎んだり
責めたりしている間でさえ-
深く刻まれていたかを私は知った。
【設問解説】
<1> 語句。やや難。
アは②、イは⑤、ウは⑤。
イは②が紛らわしい。
「慄きながら」から
「戦慄」を思い出したい。
<2> 理由説明。標準。
かつては
「連れていって欲しかった」のに、
今は「そばにいてほしい」。
正解は③。
「苦笑」
=「戸惑いを覚えつつ仕方なく笑う」。
<3> 心情説明。標準。
「かつて同じように席を譲られた時の、
妊娠中の私と、
私を気遣ってくれたやさしい夫、
を思い出したんだろうなぁ」と、
「正解のイメージ」を持ちながら
選択肢を見る。正解はズバリ①。
他は本文中に根拠を見出せない。
<4> 理由説明。やや難。
息子が亡くなったあとは、
夫婦ともに閉じこもる(笑顔がない)
毎日だったとばかり思っていたが、
写真の中の私たちには
意外にも笑顔があり、信じられない。
相対的判断で「最も適当」なのは④。
しかし⑤が迷う、難しい。
「傷付け合ったのに笑顔」
だから意外というより、
「息子が亡くなってなお笑顔」
だったから意外なのだ。
つまり、選択肢の表面的な言葉自体は
間違ってはいないが、
原因と結果(因果関係)が
おかしいから間違い、という難問。
<5> 理由説明。やや難。
④は「新しい人生のスタート」、
⑤は「重苦しい夫婦生活」、
がそれぞれ明らかに違い落とせるが、
①~③が紛らわしく難しい。
①は「夫を憎んでいると
思い込んでいた」とあるが、
実際に夫を憎んでいた時期も
確かにあった。
②は「亡くなるまでの姿」
は蘇っていない。
蘇ったのは「高校時代の姿」のみ。
「相対的判断」による
「最も適当」な選択肢は③だが、
①や②を選んでしまう受験生も
多かったのではと思われる難問。
<6> 表現。やや難。
「適当でない」ものを選ぶ。
「消去法」「相対的判断」で解く。
正解は③と⑥。
③は97行目は「感謝」なのだから
別に隠す必要はない。
⑥は言葉尻に惑わされないこと。
私が「悔やんでいる」
心情(の根拠)は
本文からは読み取れない。
あるいは③⑥以外の選択肢が
明白な間違いを含んでいない。
じっくり時間をかえれば
きっと正解出来る。
ただただ時間がないから難しい。