【2016年 小説】
【佐多稲子『三等車』】
【全体講評】
標準。20分。
1950年代の古い小説だが、
ストーリーは明快。
前年の「石のような孤独」
に比べると易しくなった。
本年のように、
「評論文では時代の最先端の
テーマを読み解く」、
「小説では過去の時代と人々に
想像力を馳せる」
というコンビネーションは
とても良いと思う。
「電車に等級が存在する」
「切符を闇(取引)で購入」
などの現代とは異なる環境を、
客観的に読み取っていきたい。
紛らわしい選択肢もなく、
力のある受験生なら、
15分程度で満点が可能だろう。
【本文要旨】
主人公が三等車で
乗り合わせた親子について
思ったことを描いた小説。
夫は妻と言い争って出て行ったが、
のちにわざわざ戻って子を見送った。
それを知らずにいる妻に、
筆者は思わずその事実を伝えた。
妻は夫の愚痴を言っていたが、
だんだんと落ち着いてきた。
闇取引で購入した切符で
座っていることに対する
後ろめたさも相まって、
主人公はこの親子のことが
気になり始めた。
子が景色を見ながら
何やら口ずさんでいる歌も、
筆者には「父ちゃん来い」
と歌っているように聞こえた。
【設問解説】
<1> 標準
共通テストの小説の
第1問の伝道芸能、
小説語句の意味を問う問題。
アが⑤、イが③、ウが②。
特に難しい問題はない。
<2> 標準
①が正解。
②は「年配の女性であることに安心」
が×。主人公は
「闇切符の値段が同じ」
であることに安心したのだ。
③は「買わされた」が×。
主人公は遠出を考慮し、
あくまで自分の意思で購入した。
④は「罪の意識」が言い過ぎで×。
あくまで「後ろめたさ」レベル。
⑤は「仕事の準備」が本文になく×。
<3> 標準
①は「和解させたいと思った」
が言い過ぎで×。
②は「訴えたくなった」
が言い過ぎで×。
③は「男の子のけなげな姿を
伝えたい」が×。
伝えたいのは「夫の姿」。
④が正解。
⑤も③同様、「男の子の心情を
理解して欲しい」が×。
理解して欲しいのは「夫の心情」。
<4>
傍線部B「腰を下ろした」は比喩。
夫への不満をひととおり吐き出し、
少し落ち着きを取り戻したということ。
①は「周囲の乗客に励まされ」が×。
②は「感激」が言い過ぎで×。
「子育てをひとりで担っている」
の根拠もなく×。
何より肝心な「夫への不満」
に対する記述がなく×。
③が正解。
④も②同様、「夫への不満」
に全く触れていない。
⑤は「まくし立てる」が言い過ぎで×。
どちらかと言うと
116行目にあるように、
妻は「ぼそぼそと」話している。
<5> 標準
①は「男の子が車内の騒がしさに
圧倒されておとなしくしていた」
が本文からは読み取れず×。
②が正解。
③は「父親は怒りっぽい」が×。
あくまでそう見えただけで、
戻ってきて子を見送るなど、
実際にはやさしい一面もある。
「悲哀」も言い過ぎ。
④は「父親の態度が
改まることを願っている」が×。
③で述べたように、
父親は悪い人ではない。
⑤は「男の子は父親のことだけは
信頼している」が×。
母親のおむすびを笑顔で食べるなど、
母親を信頼していない様子は
読み取れない。
<6> やや難
「適当でないもの」を選ぶことに注意。
①は「庶民的な一体感」、
「徐々に壊れ初めて」が×。
車内は家族のように
アットホームなワケでもなく、
もともとがそうなので、
それが崩壊している様子もない。
ひとつ目の正解。
④は「次第に気持ちを
高ぶらせていく」が×。
問4ともリンクするが、
母親は「ぼそぼそと」話しており
「高ぶって」はおらず、
次第には腰を下ろした
(落ち着いた)」。
「夫の妻への愚痴」
イコール「高ぶる」、という
先入観に囚われてはいけない。
上記のように、
①と④が明らかに適当ではないので、
残る②③⑤⑥の選択肢は
消去法で適当であると判断する。