【2016年 評論文】
【土井隆義
『キャラ化する/される子どたち』】
【全体講評】
標準。25分。
14年の馴染みのない
「漢文」がテーマの文章、
15年のやや難しい
「ネット・歴史・啓蒙」の文章、
に比べ、読み易い文章。
共通テストはこのレベルで
毎年平均化していいと思う。
2年続けて時代の最先端のテーマ。
文章量も例年に比べると少なく、
力がある受験生なら
20分もあれば満点が取れるだろう。
「現代の若者の戦略的キャラ化」
「キャラ化も悪いことじゃない」
という論旨が一気通貫しており、
非常に簡潔明快な文章。
設問も上記の理解があれば、
全て困難なく正解に至れる。
【本文要旨】
かつては「大きな物語」
(皆が一律に求める幻想)があった。
しかし現代は価値観が多元化し、
人間関係が流動化する
「相対化(小さな物語)」の時代。
「大きな物語」は崩壊し、
人々は自身のアイデンティティを
保ちにくくなった。
そこで
現代の若者は自らを「キャラ化」し、
自身の個性の多面性をあえて削ぎ落し、
錯綜した人間関係を
「単純化・透明化」することで、
現代という困難な時代を
なんとかやり過ごしているのだ。
コンビニやファストフード店員の、
あえて感情を押し殺した、
形式化した接客態度は、
まさにその典型例ではないか
(別にアンドロイドで良い)
(むしろそのほうが気楽)。
そしてそれらは、
「複雑化した人間関係を
何とか決裂させず成立させよう」
との目的に向けた若者たちの
「戦略的な態度」である。
そしてキャラは、その人を構成する
ワンピースであることも確かである。
以上のことから、
「キャラ化する現代の若者」は、
必ずしも不誠実とは言えないだろう。
【設問解説】
<1> やや難
アが③、イが⑤、ウが⑤、
エが③、オが⑤。
アの「営繕」は難しいが消去法で。
<2> 標準
①が正解。
②はやや迷うが
「世代ごとに異なる物語空間」
が本文になしで×。
③はリカちゃんが「国民的アイドル」
であったのは昔からなので×。
④は「より身近な生活スタイル」
が本文になしで×。
⑤はリカちゃんが
「イメージキャラクター」
だったのはかつての話なので×。
<3> 標準
①は「複数の人格イメージ」が×。
「アイデンティティの確率」と逆。
②が正解。
③は「社会的に自立した人格イメージ」
が本文になしで×。
④は「生まれ持った人格」が×。
「アイデンティティ」は
ア・プリオリ(先天的)なものでは
なく、後天的に形成するもの。
⑤は「合致させながら」が×。
自己の内面と外面には隔たりがあり、
完全に合致させることはできない。
<4> 標準
①は「一貫性」が「大きな物語」
時代のワードだから×。
②は「個性が際立っている」が
本文にないので×。
さらに言えば、
本旨はどちらかと言えば
「個性の多面性をそぎ落とす」
方向なので、
「個性が際立っている」
はむしろ逆。
③は「個性を堅固に」が×。
②同様、本旨に照らせば、
個性はむしろ
「単純化」されるべき方向。
④が正解。
⑤は「素朴」が本文になく×。
<5> 標準
①は「自分を貫き通す」
が本旨と逆で×。
②が正解。
③は「自分らしさを忘れない」
が同じく逆で×。
④は「自分らしさを抑えて
キャラになりきる」が×。
キャラも
自分らしさ(個性)の一部。
⑤は「誠実さそのものが
成り立たない」が×。
筆者は「キャラ化は
不誠実ではない」と、
現代の誠実さについて論じている。
<6(i)> 標準
①が正解。
「子供たち」(行為を受ける側)
から「リカちゃん」(演じる側)
への敬意だから、方向が逆。
②③④は、①が明らかに違うので
消去法で消される。
<6(ⅱ)> 標準
③が正解。
表面的な話題が変わっただけで、
論述方針の転換は行っていない。
①②④は、(i)同様、③が明らかに
違うので消去法で消される。
例年と異なり、
本年の「表現の特徴を問う問題」は、
十分に両方正解出来うる良問だった。