【2014年 小説】
【岡本かの子『疾走』】
【全体講評】
やや難。目標20分。
これぞ共通テスト(センター試験)、
じっくり取り組めば「標準」だが、
時間がタイトなので「やや難」。
理想はある程度抑揚をつけた速読だが、
あまりに速読に走ると乱読と堕し、
大事なキーワードを見過ごしてしまう
可能性を孕むジレンマで本当に難しい。
小説の基本的な読み方。
「ある出来事」をきっかけに、
主人公の気持ちが変化する。その心情の
「ビフォーアフター」を読み取る。
しかしその心情は
「悲しかった」などとは
直接には描写されないことがほとんど。
「セリフ」「行動」「情景」に着目し、
それらからあくまで「客観的に」、
心情を読み取る。
小説の基本的な解き方。
リード文を読む
(今回の文章は珍しく「全文」だが、
多くの小説問題は「切り取り」ゆえ、
リード文の事前情報が超大切)。
次に設問に軽く目を通す。
今回は特に問4「90行目まで」や、
問6の「段落分け」を留意しつつ読む。
注の「国策」=小説の時代設定は
「戦前の緊迫した時期」も踏まえつつ。
【本文要旨】
学生時代にスプリンターだった
主人公の女性が、
月光の元で疾走することで、
息の詰まるような「日常」を脱出し、
溌溂とした生の躍動が感じられる
「非日常」の光を刹那に感じる物語。
当初は訝しがっていた両親も、
ラストでは同じく
「疾走」の魔力に取り憑かれ、
刹那に日常を忘れ笑い合う。
前半は主人公の道子と兄の陸郎中心に、
後半は両親中心に展開される。
【設問解説】
<1> 標準
アは⑤、イは④、ウは①。
全問正解したい。
<2> やや難。
小説は、全文を読了しから、
各設問に当たるほうがよい場合が多い。
この設問も、
17行目「縮こまった生活ばかり」、
18行目「吐息をまたついて」、
33行目「兄妹は親し過ぎて」、
60行目「親し過ぎる」、などを
踏まえなければ根拠を持って解けない。
正解は③。
①は「孤独」が×。
②は「恥ずかしさ」が×。
④は「憤り」が×。
⑤は「投げやり」が×。
また、「仕事を続けなければならない」
とあるが、その後中断している。
<3> 標準
直前の
「自分独特の生き方を発見した興奮」
がそのまま解答の根拠となるので、
標準的な問題。正解は④。
①はやや迷うが、
「疾走」を「正しさ」云々の基準で
捉えているワケではない。
②は「非常時では世間から非難される
かもしれないことに密かな喜びを感じ」
とあるが、
道子はそんなサイコパスではない。
③もやや迷うが、
現実生活そのものが
変わる可能性については
本文に書かれていないし、
「日常」の「緊張」と、
「非日常」の「緩和」が、
対照的だからこそのこの小説の面白味。
⑤も同様で、
道子はそもそも「日常」に
期待や価値を置いていない。
<4> 標準
1問だけで
まるまる1ページを費やしゲンナリ。
しかし解答の根拠がしっかりある。
33行目「兄妹は親し過ぎて」、
34行目「自分独りで内密に味わい」、
60行目「親し過ぎる」。
正解は③。
①は「いとおしく感じている」が×。
②は「奔放な陸郎への憧れ」
が本文に記載なし。
④は「道子の融通の利かない性格」
が本文からは読み取れない。
⑤は「兄には理解してもらえる」が×。
道子はむしろ内密にしたいのである。
<5> 標準
こちらも設問が長くてしんどい。
しかし根気良く取り組めば、
紛らわしい選択肢は少なく、
さほど難しくない。
前半は「さんざん心配していたのに、
だんだん道子の走る姿を見たく
なってきちゃった」ことでの笑い。
後半は「肝心の道子より、自身たちが
疾走で楽しくなっちゃって」の笑い。
これらの両方の要素が入っており、
最も適切なのは①。
<6> 標準
消去法で解く。
①は「心内のつぶやきのみで」が×。
②は、
母親は、道子の倒置法返答の前から、
すでに不審がっているから×。
③は、
「読点なしの『まあ』」は
別にあきれている訳ではないから×。
④は特におかしなところはなく正解。
⑤は、
「銭湯に行く」など、道子からも
家族へ発話しているから×。
⑥は特におかしなところはなく正解。