【2014年 評論文】
【齋藤希史『漢文脈と近代日本』】
【全体講評】
やや難。目標25分。
話題の中心が「漢文」というだけで、
「現代文も漢文かーい」と、
漢文ぎらいの生徒はゲンナリしたハズ。
「寛政異学の禁」
「士大夫」「科挙」など、
最低限の日本史や世界史の知識も必要。
吟味を要し、時間だけ食う、
表現の特徴を問う問6も受験生泣かせ。
日本文化の根源には
中国文化(漢文)があり、
当時の日本の知識階級にとって
漢文は必須の素養であった。
そして近世の士族階級のみならず、
明治期の知識人
(福沢諭吉や夏目漱石など)も、
確固たる漢文の素養を持っていた。
そして彼らは西洋語を、
漢語を用いて翻訳(創造)していった
(「社会」「哲学」など)。
ゆえに「漢文」がテーマの本問は
大変興味深いのだが、
実際にそう思える受験生は
ほぼ皆無と思われる。
本当は時間無制限で
じっくり吟味させたい文章。
【本文要旨】
日本の近世(江戸時代)、
士族階級(武士)は漢文学習を通じ、
中国中世の科挙制度化の士大夫同様、
エトス(思考や感覚の型)を身に着け、
それが幕藩体制の統治者としての
自覚に繋がった。
中国の士大夫は完全な文人であったが、
日本の士族階級はあくまで
「武人」を前提とした「文人」だった。
しかし、漢文学習を通じ、
「統治者としてのエトス」を獲得し、
その世界を再生産・継承していく点、
および
「統治者としての自覚」に目覚める点、
は両者に共通した。
【設問解説】
<1> やや難
消去法で何とか正解には辿り着けるが、
それでもやはり(ア)「痛棒」、
(ウ)「軍功」はやや難しい。
アは②、イは③、ウは④、
エは②、オは③が正答。
<2> やや難
まずリード文をしっかり読むこと。
そもそもこの文章は、
「士族階級を通じ、
漢文の読み書きが全国に普及した」
ことを前提とした文章である。
そしてこの設問は「理由説明」問題。
作者は「日本の話」をしたい筈なのに、
なぜわざわざ「中国の話」に
話題を転換するのか。
それは両者に共通点があるから。
そして傍線部以前では、
日本の江戸時代、
士族階級は漢文の学習を通じ、
「ある特定の思考や感覚の型」を
身に着けていったことにも
「注意を向ける必要がある」と
筆者は述べている。
ゆえに最も適切な選択肢は、
ズバリそのキーワードが入っている④。
<3> やや難
中国の科挙(漢文・漢詩の試験)は、
士大夫世界を「再生産」し、
かつ「継承を保証」する。
つまり漢文を学習すればするほど、
彼らの世界は現在そして未来へと、
より強固なものとなっていく。
しかし選択肢が紛らわしく、
消去法でしか解けないためやや難。
①はそもそもひとつだけ
主語が「士大夫」ではないため×。
③は第7段落に、
「儒家だけでなく道家も」
とあるため×。
④は「身分制度の流動化」が×。
本文の主旨は(あるいは史実としても)
むしろ身分制度は固定化する方向。
⑤は「システム全体の変容」が、
④同様、むしろ逆。
システムはむしろ固定化される方向。
<4> やや難
設問に注意。
内容説明でも理由説明でもない。
中国の士大夫は完全な文人(官僚)。
しかし日本の士族階級はあくまで武人。
しかしその「武」を、
「忠義の心」と価値転換することで、
実際にバリバリ戦わずともよくなった。
そしてその「忠義の武」を前提として、
自由に学問に励めるようになった。
日本の武士は、武であり文であった。
また、第17段落には、
「学問は士族にとって必須」ともある。
つまり武士は学問により
アイデンティティを確保したのだ。
①は「理想とする士大夫」
が本文になく×。
②は「刀が官吏の象徴」
が同じく本文に記載なく×。
③は「刀が本来意味した忠義」が×。
「忠義」は「価値転換」後の意味付け。
⑤「学問を重んじる風潮に流されず
精神の修行に専念」が本文になしで×。
<5> 標準
やっと標準レベルの設問。
「内容説明問題」ゆえ、
傍線部を分析して考える。
「道理を背負う」=「エトス」。
「天下を背負う」=「治国」。
①は「天下を背負う」がなく×。
②は「文と武が調和」が×。
武が下部(前提)、文が上部で、
溶け合ってはいない。
④は「士人の生き方を超えた」
が×。武士はあくまで士人。
⑤は「天命として」が本文になく×。
<6(i)> やや難
表現の特徴問題は、
消去法で解くしかなく、「やや難」。
あまり良い問題とは思えない。
①は、特に第9段落に於いては、
特に読み手に問いかけてはおらず×。
③は「文末『です』」=「話題転換」、
などというナゾの公式はないので×。
④は「観念的なスタイル」がナゾで×。
②も完全に正しいとは言えないが、
消去法で正解。
<6(ⅱ)> 標準
本文の全体の流れは、
導入⇒中国から論⇒日本から論、
なので、①が正解。
②は「中心部分」「補足部分」が×。
③は「大きく2つに分けられ」が×。
特に第五段落は
大きく内容が変わっている。
「詳細な説明部分」も×。
④は「第3段落~第11段落」が
「起承転結」の「承」ではない。
第5段落から話題は「中国」に移り、
「承」どころか「転」なので×。
第11段落と第12段落の間で
切っているのも×。