こんばんは、Wam六十谷校の川口です。
結城浩さんの数学ガール新刊が出ており、行列について改めて勉強する機会を得ました。
行列の和差積、零行列、単位行列、逆行列など基本的な演算が具体的な計算の展開とともに説明されていきます。指数法則、結合法則、分配法則なども確認し、数の世界と行列の世界の対応が丁寧に書き込まれています。
また、虚数単位に類似した行列や3乗すると単位行列になる行列を作って、複素数平面上の図形、回転行列に対応させることで可能性を広げていきます。虚数の行列はないのかというともちろんあり、エルミート行列など物理学や工学などではこちらがメインになるようです。その後、著者のプログラムの知識を生かして、作中のキャラクターが線形変換のデモンストレーションを行っていきます。行列による座標平面から座標平面への写像で描かれた図形を美しく変換していきます。行列による変換の線型性は美しく、和の行列による変換は、行列による変換の和であったり、線型性を数学の他の単元にも適用できることが紹介されています。和の微分は、微分の和など微分の線型性、積分の線型性、期待値の線型性も挙げられています。考えてみれば当たり前なのですが、同一視を得ることは脳への刺激になります。
行列の積は普通に計算して行列になりますが、この線型変換が示すことは何なのかを考えると、行列の積は線型変換の合成を表しており、逆行列が逆変換を表します。続いて行列式で面積、ベクトルなども表します。行列式はdetとも書かれ、determine(決定する)ものであり、行列の性質を決定します。行列式はライプニッツが連立方程式の解の存在を研究するのに使っていたようです。日本でも関孝和がそれ以前に使っていました。
2022年からの次期学習指導要領案では数Cが復活し、ベクトル、式と曲線、複素数平面が数学Cに移行します。ベクトルを習わない文系世代が出てくるのは衝撃ですが、統計的な推測が数学Bで必須になり、データの分析では仮説検定も扱うことになるようです。統計学はコンピュータを使う側に必要となる知識で、現行の数学を圧迫する情報技術系のものですが、カイ二乗検定など医療、経済分野では有用なのでプログラミングの必須化も近いのだと意識させられます。また、数Aに期待値が再度現れるのも、日常生活で感じる確率の認識を妨げるバイアスを少し自制するためかもしれません。
行列は線形代数、群などへ接続するための一本の道であり、C言語やPythonでも使えます。既知の現象を行列やベクトルで一般化することはより理解しやすい形への変化になり、別の角度から物事を分析する一助になると思います。