こんばんは。Wam六十谷校の川口です。
学校で習う構造式は基本的なものが多く面白みがないですが、世の中には楽しい構造式も多くあります。
教科書にも載っているものから挙げるとフラーレンは美しい形です。五員環と六員環からなるフラーレンが閉じた球状構造をとるために、オイラーの多面体定理から5員環が12個必要です。フラーレンの内部空間に不安定な金属クラスターが内包された金属内包フラーレンは特異な酸化還元電位の特性などを利用して太陽電池やトランジスタなど各種電子材料や造影剤などの応用が期待されています。
化学教育プロジェクトの一環としてライス大学が作ったナノプシャンはユニークな形をしています。フェニルアセチレンでできた分子骨格で、ハロベンゼンとアセチレンを園頭カップリングで合成しています。置換ベンゼンの合成がおもしろく頭部のアセタール構造を変換して、帽子を変えることも簡単です。機能性がない合成を行うことに意味があるのかと考える人もいるかもしれませんが、数学と同じく自然科学も有用性のみを求めると探求を遠ざけます。
プロペランは名前の通りの形の化合物で、ひかげのかずら科、つづらふじ科などの植物中のモルフィンやインドール系のアルカロイド類の中にもプロペラン骨格を内蔵する分子が存在します。多脂環群として上下左右に攻撃面があるためすぐれた立体化学のモデルとみなす研究や、三次元構造や脂環基の大きさに基因する物性や反応性に関する研究が行われ、人工的にも作られています。
マイトトキシンは分子量3422の最大の天然有機化合物であり、シガテラの原因となる化学物質です。全合成をニコラウが試みていましたが、2012年に頓挫しています。何も模していないですが、人類が踏破する対象としてはこの上ないものであると思います。
他にもベンゼン環からグラファイトのような巨大な多環系炭化水素を構成したり、曼荼羅のようなボルフィリン多様体、タキソールの全合成など化合物にも歴史があり、その美しさは有機的で生物のように感じます。結晶構造やライフゲームにも人工的で似た美があり、既視感を覚えました。